接触皮膚炎のメカニズム
接触皮膚炎は、刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎の2つに分けることができます。この2つはそれぞれ発症するメカニズムが異なっています。
刺激性接触皮膚炎は、何かでこすれたり強い圧力がかかったりといった物理的な刺激や、皮膚の強度を超えた強い濃度の酸、アルカリといった化学物質が、直接皮膚に接触したことによっておこる皮膚の障害です。
一方、アレルギー性接触皮膚炎は、皮膚の内部へ取り込まれた化学物質に対して、免疫機能が働くことによってアレルゲンと認識されて抗体が作られることでその物質に対して反応がおこり(感作といいます)、その後は皮膚に炎症の症状がでるようになります。一般的には、アレルゲンが身体に取り込まれてから数時間から2~3日程度で、痒みを伴って血管が拡張した紅斑、皮膚が小さく盛り上がった丘疹、水ぶくれ(水疱)などが現れます。
原因となる物質
接触皮膚炎の原因となる物質は、野菜や果物といった食べ物から、日用品、金属、化粧品、医薬品と多岐にわたります。
このうち、植物や、野菜・果物などの食物、日用品などは、短期的な症状をおこす原因となることが多いのですが、慢性的な接触皮膚炎の場合、原因物質の特定は難しいものとなります。
金属は、時計やアクセサリーなど普段身につけていて、はっきり分かる物の他に、スカーフなどの染料として金属が含まれていたり、アイメイクなどの化粧品に含まれているケースもあります。また金属によるかぶれは汗との化学反応によっておこることが多いため、夏場に発生しやすいという特徴があります。
化粧品による皮膚炎は、その化粧品を使用した部位にのみ炎症が生じますが、メイクの下に隠れてしまったケースなど、気づかないでいるうちに色素沈着をおこしてしまうこともあります。
医薬品や医療用品もかぶれなどをおこすことがあります。本来は疾患の治療を目的として使用するものですが、人体にとっては、薬や医療医用の器具なども、異物と認識されてしまいます。そのため人によって、かぶれを引き起こすことがあるのです。
接触皮膚炎の症状
皮膚炎の原因となる刺激物やアレルゲンに触れると、その部位に痛みやヒリヒリとした痒みを伴った発赤や少し盛り上がった発疹が生じます。さらに重症になると、ブツブツとした湿疹や水疱ができ、皮が剥けてしまったり肌がガサガサに荒れてしまったりするケースもあります。手の平のような、皮膚が分厚い部位には、あまり症状がおこることはありませんが、原因物質を触って、その成分が付いたまま、他の皮膚の薄い部位を触ると、その場所にも発症することがあります。
刺激性の接触皮膚炎では、痒みより痛みを強く感じる傾向があります。痛みはヒリヒリとしたもので、軽症であれば、発赤や小さな水疱を生じるか、角質が剥がれ落ちる程度の症状ですが、重症になると激しい痛みとともに、火傷のような大きな水疱が生じるようなこともあります。
一方、アレルギー性の接触皮膚炎では、原因物質に触れた部分に痒みを伴った紅疹が生じますが、症状が重くなると、炎症の範囲が広がって、接触部分の周りにまで影響がでるようなこともあります。アレルギー性の場合、触れてすぐに炎症がおこることは少なく、通常数時間から約1日程度を経てから症状がおこる傾向があります。
刺激性、アレルギー性のいずれの場合でも、悪化してしまった場合、炎症が治った後に色素沈着をおこしてしまうことがあります。そのため、軽いものでも炎症に気づいたら早めに皮膚科に相談して治療を受けるようにしてください。
治療・予防方法
治療法
まず、かぶれを引き起こしている物質が何なのかを特定して、それを取り除くことが大切です。たとえば、以前に触れてアレルギー症状をおこしてしまったような物質に再び触れてしまったときは、水や石けんで良く洗い流すようにしましょう。
また、洗い流した後は、強い痒みを感じても、患部を掻いたり触れたりすると悪化してしまいますので、できるだけ触れないようにしましょう。もし、炎症の範囲が広いようなら、その範囲に冷やしたガーゼを当てると症状は和らぐことがあります。
このような応急措置の後は、できるだけ早く皮膚科などを受診するようにしてください。
治療としては、刺激性、アレルギー性のどちらの場合でも、痒みや炎症を和らげる働きのある、ステロイド外用薬を使用します。患部が広くて症状が強い場合は冷やしたガーゼを当てる処置は、治療中ご家庭でも有効です。
通常、症状の軽い場合は、医師の指示通りに外用薬を塗布することで、数日で完治することもあります。しかし、なかなか改善しない場合や症状が悪化してくるようなことがありましたら、すみやかに医師に相談してください。
予防法
1.原因物質に触れない
原因物質に触れないようにすることが一番の予防です。そのために、原因物質を特定することが大切ですが、それがはっきりしないケースでは、過去にかぶれたことがある物質はできるだけ避けるようにしましょう。どうしても触れなければならないような場合には、手袋をしたり、肌の露出部分ができるだけ少なくなるように服装を工夫して肌を守りましょう。
2.肌を清潔に保つ
原因物質が肌に付着している時間が長ければ長いほど、炎症は悪化する可能性があります。汗をかいたら、こまめに拭き取りましょう。ただし、強くこするとお肌を傷めますので、軽く押さえるようにしてください。またこまめにシャワーやお風呂使って、常に肌を清潔に保つようにしましょう。入浴・シャワー後はしっかり保湿もしておきましょう。
3.掻かないようにする
痒みがあると、つい本能的に掻いてしまいがちですが、掻くことで角層が痛み、さらに悪化する可能性があるばかりではなく、皮膚についた小さな傷から細菌が入り、化膿してしまうことも考えられます。患部を冷やすなどで対応し掻かないように気をつけましょう。
4.肌にあったものを使用する
日常的に身の回りで使用する、衣服、特に肌着などの素材には十分注意しましょう。また化粧品、洗剤なども肌に触れる機会が多いため、成分に注意をしてご自分にとって刺激の強いものや一度でもかぶれをおこしたものなどは避けるように注意をしてください。
創傷被覆材(そうしょうひふくざい)等による皮膚炎
創傷被覆材や皮膚表面接着剤による皮膚炎
創傷被覆材は、簡単に言えば新しい考え方で傷を治療するためのテープのようなものです。皮膚の創傷部分を従来のように空気に触れる形で保護するのではなく、傷面をテープと特殊な接着剤で表皮のようにぴったり覆って、水分を保ったまま傷の治療と保護を行うものです。これに使われている接着剤などは、身近に存在する家庭用品などと同じ成分でできています。こうした製品が傷治療に頻繁に使われるようになって、近年、接着剤に含まれるアクリル樹脂によるアレルギーの報告例が増えてきました。また、こうした接着剤は、まつげのエクステやネイルなどにも使われているケースがあり、炎症の報告も増えてきています。
実際には、傷の部分が皮膚炎をおこす理由としては、こうした医療材料によるアレルギーだけではありません。原因を特定するためには、どのようにして発症したか、どのような症状なのかなどをしっかりと見極める必要があります。そういった原因の鑑別なども含めて、炎症が悪化しないよう、総称部分に炎症がおこってきたら、できるだけ早めに専門医を受診してください。
創傷被覆材や皮膚表面接着剤はどのタイミングで剥がせばいい?
創傷被覆材は、一定期間貼りっぱなしにしておくものですが、創傷の状態や皮膚の乾燥、発汗などの状態によって、接着剤成分は吸収されやすくなります。そのため、創傷被覆材によって治療する部分については慎重に検討することはもちろん、患部の様子を見ながら、できるだけ早めに剥がすようにします。傷が治癒しているようなら、できるだけ早めに除去しましょう。
創傷被覆材や皮膚表面接着剤を使用できないケース
患者様それぞれの皮膚の状態を確認すると同時に、かぶれやアレルギーなどの既往については十分確認する必要があります。こうした患者様には創傷被覆材や接着剤が使用できないケースもあります。
外装や内装工事などで職業上よく接着剤を使用されたり、プラモデルの組み立てなどで趣味的によく使用される方は、医療用接着剤による炎症が発症しやすくなることがあります。また、以前に傷の治療などで、皮膚表面接着剤であるダーマボンドを使用したことのある方も同様の傾向があります。医師にその旨お伝えいただくと判断を正確に行う材料となります。
また、妊娠中の方や更年期期間の女性はホルモンバランスの変化によって、免疫機能が不安定になることがあります。そのため、創傷被覆材は傷の様子を見ながら、できるだけ早めに除去するように配慮しています。
金属アレルギーによる皮膚炎
金属アレルギーは皮膚に接触するものだけで起こるものではありません
金属アレルギーというと、時計や装身具など、身につけているものによるアレルギーを考えがちですが、金属アレルギーの原因物質はそれだけではありません。肌に密着するものとしては、化粧品や衣服の染料に使われる金属製品も考えられます。一方、金属を含む食品を過剰に摂取したり、歯科治療で使用する義歯や詰め物などの金属、骨折治療などで用いる金属製のボルトや人工関節などの生体内挿入金属などから発生した金属イオンが汗と混ざって体外に排出されて皮膚に触れることによって、全身型の金属アレルギーをおこすこともあります。
そのため、近年では、こうした金属を使った治療を行う際に、事前に全身型金属アレルギーの検査を行うケースも増えてきました。この全身型金属アレルギーの症状として、創傷被覆材や皮膚表面接着剤による接触皮膚炎と似た症状が現れることがありますので注意が必要です。
当院では金属アレルギーを疑う方に対する採血によるニッケル検査は、原則自費となります。詳しくはお電話にてお問い合わせ下さい。
全身型金属アレルギーと創傷被覆材や
皮膚表面接着剤による皮膚炎が似ている理由
全身型金属アレルギーになると、腋の下、臍、股の部分など汗が溜まりやすい部位に汗と混ざった金属イオンが反応して発疹ができやすくなります。一見アトピー性皮膚炎のような症状に見えるこのような状態で、創傷被覆材や皮膚表面接着剤を使用すると、その部分から汗が蒸発せず、皮膚の表面に溜まってしまうことによって、金属イオンがその部分にアレルギー症状をおこしてしまうことがあります。そんな状態で患部を診ると、症状は創傷被覆材などの医療用品による接触皮膚炎とほとんど同様になっていますので、そのまま接触皮膚炎と診断してしまう可能性もあるわけです。
こうしたケースでは、創傷被覆材などによる接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎に加えて全身型金属アレルギーの可能性も考慮して診断・治療に当たる必要があります。そのため、さまざまな検査を行うこともありますが、もし、既往症として金属アレルギーやアトピー性皮膚炎がある場合は、医師にその旨お伝えいただければ、正確な診断のための貴重な情報となります。